株式会社中村衞商事 Blog

「年数は“旨味”の保証書ではない—昆布のヴィンテージ信仰をほどく」

作成者: 代表 中村 文衛|Oct 23, 2025 5:33:17 AM

 

昆布業界に入って間もない新参者ですが、最近どうしても拭えない違和感があります。それは、年数だけが先行する“行きすぎたヴィンテージ信仰”です。

懐古趣味であれば何もいうことはありませんが、「15年ものを使ってます」「60年前の昆布持ってます」をあたかもそれが美味しいかのような風潮が蔓延っているような気がします。

確かに熟成という言葉は魅力的で、物語もつくりやすいです。けれど、少なくとも昆布において年数=旨味ではありません。旨味は、漁場→収穫→一次処理→保管が織りなす条件の総合結果です。

まず、漁場。潮通し、透明度、日当たりの安定が葉質を決めます。ここで立派に育たないと、いくら年数を重ねても伸びしろは限られます。

次に収穫と一次処理。陸揚げから・乾燥までの“数時間”の差が、後の立ち上がりや雑味に跳ね返ります。最後に保管。温湿度、空気の入替頻度、光といった条件が、熟成を旨味の“曲線”にするのか、ただの劣化にするのかを分けます。

年数だけが独り歩きすると、いくつかの歪みが生まれます。

① 品質リスク条件が悪ければ、熟成どころか分解・酸化が進み、香りは鈍く、苦渋味が目立つ。

② 価格の独走:年数=高値という単純図式が、味の中身から目を逸らせる。
③ トレーサビリティの希薄化:年数と同時に語るべきテノワール「どこで、どう昆布を獲ったか」が棚上げされる。
④ 在庫の金融化:商品より“年数”が投機化し、現場と食べ手の距離が開く。

弊社は、年数を“主役”から“履歴”に下ろし、“適熟”という考え方で整理したい。昆布のロットごとに熟成曲線を描き、ピークの“適熟点”で昆布を出す。というのが当社のありたい昆布問屋です。「このロットはX年で最もおいしい状態に到達した」という根拠ある物語を提供したいと考えます。逆に言えば、ピークを過ぎたロットは、年数が増えても“価値”は増えない。値札だけが熟成していないかを自問したいのです。


ヴィンテージの響きに酔う前に、適熟という基準で、もう一度現場から組み直していきます。

時間とお金がかかるものでありますが、研究者・料理人・漁師を巻き込んで進めていきます。少々大きいことを掲げましたが、一歩づつ進んでいければと思っています。